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日々の雑感が惰性で書かれた怪文書

感想『臨界天のアズラーイール』寿命の引き換えとパラレルスリップの設定を活かした快作

※【注意】この記事はフリーゲーム『臨界天のアズラーイール』本編に関するネタバレ、結末が多く含まれているので、やられていない方は読まないことをおすすめします。

 

普段ふりーむ!をよく見に行って新着で惹かれるものがあれば適当にDLしてやってみるという暇つぶしをしているのだけれど、普段シュミレーションをやっているので、最近はめぼしいゲームが尽きつつあった。

 

最近ノベルゲームをやってないなと少し感じたので初見のサイト「ノベルゲームコレクション」のランキングを見てみると、普段ノベルゲーはやらない私でも分かるような『公衆電話』『バディコレクション』などのビッグタイトルがずらりと並んでいた。

 

このランキングであればきっと全て面白いだろうと踏んだ私は、サムネイルに惹かれた『臨界天のアズラーイールをやってみようとダウンロードした。

 

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以下、内容含め感想。

 

人生の中でも嫌なことがあると、やり直したいという思いや、死んでしまいたいという思いを抱くことは何度かある。本心では生きたいと思っていても、絶望してしまうと突発的な衝動で自殺してしまったりする例は後を絶たない。

 

同時に、私は今まで生きてきた人生を自分の都合よく書き換えた自分という夢想も何度となく繰り返してきた。それはトラウマを思い出す度、逃げるように行った行為である。

 

そういったマイナス面での自分へ突き刺すメッセージを、本作『臨界天のアズラーイール』は有していると思う。

 

本作は主人公・想田理人が新卒で一華建設に入社するところから始まる。そこで施行管理の部署の上司である長島麗美と出会い、だんだんと仲を深めて甘々なラブストーリーが始まる……というのが前半の大まかな内容である。

 

最初は少し冗長かな?と思えるほどの日常シーンが多く含まれている。かなり丁寧に作り込まれているので導入だけで1〜2時間はあった。まあ理人の8年間を描写していると考えたらかなり端折ってはいるのだろうけれど……と思ってたらコレ全部のちの伏線だった。すごい。

 

私も商業施設でイチャついて、「続きは帰ってから……ね?」とか言われてみたい人生でした。ウワーーーーーーーーーーーー!

 

理人は長島麗美と結婚する前から子どもが産まれるまで、ずっと謎の悪夢に悩まされ続ける。理人が宗教的な組織で洗脳されている夢である。病院をいくつも回ったみたいだけれど、理由は分からずじまい。

 

まあ本人は至って健康だしね……。

 

遂に脳が耐えきれなくなった理人は仕事中に卒倒。目が覚めるとモノクロの世界でそこには一人の鎌を持った少女が佇んでいた。

 

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か、かわいい……!

 

彼女の名前はアズラーイールで一つのパラレルワールドを管理している死神らしい。彼女が言うにはどうやら宗教団体に洗脳を受けている理人が本当の姿で、長島麗美と結婚した世界線の理人は彼本人の理想の世界、いわば夢の世界のようなものだと言う。今いる場所はその狭間である臨界天。

 

「さっきまで生きてた世界が虚構だよ」と言われたら誰でもショックを受けそうだ。一応生きた記憶は本物らしいけど……。

 

アズラーイールは自殺する寸前に取引をする死神で、寿命を一週間奪う代わりに理想の世界での一日と交換する役割を担っているらしい。理人は麗美との世界に行く前に取引をして、そこでの寿命が尽きてしまったので、アズラーイールの元へと帰ってきたのだった。悪夢はその前兆だったようだ。

 

アズラーイールは残り寿命の端数、四日と少しを宗教団体で鞭打たれている辛く苦しい現実世界で過ごすか、死んで残り四日をアズラーイールに渡し、理想に生きるか選べと理人に迫る。

 

いやいや理想でしょと言いたいけれどルート的にはBADなんだよね……。どっちも割と心理的には正解っぽいけれど。

 

この二択が『臨界天のアズラーイール』において唯一の選択肢である。それぞれTRUEエンドとBADエンドだけれど、今回は現実世界ルートについて扱う。

 

現実戻ります、と言ったら「へえ、おもしれー人間」みたいな態度を取られたので、辛い現実よりも理想に生きたい人は大半なんだなあということがここで分かる。

 

まあ、というのも理人は顔を名前を思い出せないけれど、昔自殺しそうだった所を助けてくれた女の子に現実世界で教団の牢獄から脱獄してから一言お礼を言いたいらしいので、そのためだけに戻る決心をしたようだ。

 

そんな日数で大丈夫か?(四日)

 

これは理人くん男気あふれる……というか浮気では?麗美ちゃんは?子どもは?

 

感謝するだけならなんとも律儀なことだと思うが、理人にとって彼女は生きる理由といっても過言ではないので、ここまで入れ込んでいるのも仕方がない。

 

残り四日の命なので、文字通り「無敵の人」である理人は教団の悪事の証拠を手に入れてから、わざと工場機械で小指を切断。痛い。

 

その後教団に併設されている問診所で協力してくれる医者と出会い、上手く施設から抜け出した。

 

あと何故かアズラーイールが実体化して付いてきた。理由は「面白そうだから」だそうだ。あとメインヒロイン級に可愛い。(大事)

 

この辺で地震が起こる。地震は理想の世界の同じ時間帯でも起きていたので、プレイヤー的には「あっ……(察し)」となった。

 

理人は宗教団体の実態をマスコミや警察にばら撒いて、命の恩人である少女と過ごした孤児院へ向かう。そこで見た白百合の花畑を見て、彼女の名前が「美咲沙百合」だったことを思い出す。当時の施設長だった「パパ」から進学先の情報を聞き出して、そこへ向かった。

 

キャンパス内に入り、図書館で沙百合の卒業作品と就職先を見つける。卒業作品「lilium」は理人との思い出の曲であると同時に、『臨界天のアズラーイール』主題歌となっている。

 

沙百合の就職先へ向かった理人は沙百合がもう退職してしまっていることを知る。沙百合の知人から音楽とは関係ない仕事に就いたという沙百合の今の職場を教えて貰い、そこへ向かう。

 

なんとこの会社、というかビルは理人も理想の世界で来たことのある、長島麗美と共に設計し直した4階部分が燃えたビルであった。麗美はその時、「火事で女性が一人、犠牲になった」と言っていた。

 

理人にとっては理想の世界での年月を含めると8年前の出来事なのでパッと思い出せなくても仕方がない。

 

理人はやっと気付いたけれど、理想の世界の導入パート、「少し冗長かな〜」と思っていた部分は全て伏線になっていて、この火事で死んだ犠牲者「美咲沙百合」その人であるらしかった。

 

沙百合のためなら火の中水の中、理人は燃え盛るビルの中へ飛び込んでいき、実体化したアズラーイールの助けもあって沙百合を助け出すことに成功する。

 

沙百合さんにタイトスカートにタイツという性癖ぶっ刺さりCGカットがあったのはびっくりした。ありがとうございます(?)

 

なんとか理人は沙百合を助け出したのだが、四日とちょっとの寿命が尽きてお礼を言う前に死んでしまう。終わり。

 

 

 

 

 

〜エンドロール〜

 

 

 

 

 

のはずが、アズラーイールが理人の生きたいという願いから、寿命を戻してくれたらしい。

 

もしや死神どころか天使では?

 

アズラーイールは別の世界線の記憶を持つ理人が問題を起こさないように生涯を見届けなければならないし、理人の分の寿命を別の誰かで補填しなければならない。

 

損しかないように見えるアズラーイール理人の情に絆されたのだろう。

 

きっと理人と沙百合は結婚し、末永く幸せに暮らしただろう……めでたしめでたし。

 

いや、麗美さんは?(一応火災の最中にお別れするシーンはあった)

 

ストーリーはこんなところだが、総評としては脚本も作中音楽も高いレベルでまとまっていた……というより商業レベルにはあるだろうと思う。今でも普通にSwitchあたりで配信できそうなクオリティである。

 

ただ、そうなるとやはりノベルゲームにしても選択肢の少なさがネックになってくると思った。複数マルチエンドシステムであれば、同人ゲームでも文句なしに2000から3000円くらいは余裕で取れそうな作品だったように思える。

 

フリーゲームとしてはこれ以上ないくらいの傑作なので、同人サークル『→Quantize_』様のこれからの発展と充実を願うばかりである。

 

『→Quantize_』様リンク↓

https://quantizegame.wixsite.com/quantize